マウイ島のスイーツを代表するコモダ・ベーカリーのスティック・ドーナツ。高原の町マカワオの涼しい朝の空気のなか、毎朝7時にベーカリーのドアが開くころ、外にはちょっとした人だかり。ドアが開くと、人々は和やかに中に入り、「おはよう!」の挨拶をしながら、店の奥でコーヒーを入れたり、さっそく注文をしはじめるのが定番です。驚くのは山盛りにつまれたドーナツの数、特にスティック・ドーナツの山には驚くものがあるのですが、それもあっという間にお客さんの注文に応じて、箱に詰められていきます。
丸められたドーナツ生地5個を串に刺してあげたスティック・ドーナツ、触るとパラリと取れてしまう繊細な薄い膜のような砂糖がかかっている揚げドーナツ、串から一つ外してほおばれば、ジュワッとした外側の油、中のモッチリとした生地、ああ天国とつぶやいてしまうのは私だけではないはずです。
マウイ島のローカルに愛されるこのドーナツは1916年創業のコモダ・ベーカリーの秘蔵っ子、日本でも人気の大手ドーナツチェーンがやってきたときも、マウイ島で一番のドーナツの座を譲ることは決してありませんでした。
その秘密は夜中の12時から仕込みを始める、コモダ・ベーカリーの裏手にあるキッチンにあることは、島の誰もが知っていることなのですが、ドーナツの生地作り、揚げ、砂糖がけの作業に主に関わるのはたった二人であることを私が知ったのは十年ほど前の取材で真夜中のコモダ・ベーカリーのキッチンにお邪魔したときのことでした。古い建物の創業以来のキッチンは狭く、ぶらさがる電球からの限られた明かりのなかで、無駄なく動くたった二人の手に驚いたものでした。
実は、コモダ・ベーカリーは1916年にコモダ・タケゾウ&シゲリさんが創業したときは、サイミンヌードルやビーフシチューを出すレストラン、今のベーカリーのある交差点のはす向かいにあったそうです。1947年にタケゾウさんの息子タケオさんが跡を継いだときに今の場所になり、弟のイクオさんがミネアポリスのベイキング・スクールを卒業して帰ってきたときに、ベーカリーを始めたのが今の場所。キッチンで動く二人の手とは、なんと、半分リタイアだと言いつつ今だにキッチンにたつイクオさんと弟のダンさんの手。
私はそのイクオさんの姿を見て以来、コモダ・ベーカリー以外のドーナツに私のドーナツへの愛を一生捧げることを誓ったのでした。おじいちゃんの手で作られたこのドーナツで満ちるお腹、そんな幸せは他にはないからです。
コモダ・ベーカリー/Komoda Store & Bakery
3674 Baldwin Ave. Makawao, HI 96768