セコイアが話し始めると、ガヤガヤとしていた聴衆は水を打ったようにシーンと静まり返ります。
「私には、子供の頃からいつも支えてくれる夢がありました。それは荒唐無稽で、友達の誰もが信じてくれないもので、たまに大人に話すと笑って素敵な夢だね、と子供扱いするものでした。私は人魚になりたかったのです。小さな頃からずっと。リトルマーメイドの映画を見た時から、私は人魚の虜になりました。人魚はこの世界のどこかに存在すると思っているし、ねぇ、ほら、私は人魚になったでしょ?」
(そう言って周りの子供たちに聞くと、一様にみんなうんうんと頷いている。8歳くらいの男の子が「そんなの嘘っぱちだよ! 偽物の人魚だ!」と叫ぶ)
セコイアはその男の子に微笑んで、
「嘘っぱちの人魚か……。どうして嘘っぱちだと思うの?」
男の子は
「人魚なんか存在しない!」
セコイアは
「例えばね、私はとっても強く人魚はこの世界のどこかに存在すると信じているの。地球の総面積の3分の2を占める海、地球の表面の約71パーセントを占める海洋は10〜15%しか解明されていないの。天候とか地球の温度だけじゃなくて、最終的には君や私、ここにいるすべて、虫も動物もその花も人間も、君が食べているすべての全生命体を生かしてくれている海だけど、正確な地図が作られているのはその10パーセントに過ぎないの。
その海も深海、それは植物プランクトンが光合成できる限界とされている水深200メートルより深い海は、海洋の約95%を占めているのね。
深海でも6,000メートルより深い溝のようなところは海溝というのだけど、世界で最も深いマリアナ海溝の深部は、チャレンジャー海淵といって水深は1万メートル以上ともいわれている。世界最高峰の山はエベレストで、約8,850mだけど、世界最深部はマリアナ海溝のチャレンジャー海淵で、海面下約10,920mに達するんだよ。
人魚なんていない、嘘っぱちだって、人間がいうのは、なんだか偉そうな気がしない?」
男の子は素直に頷く。
「現に、私は人魚になれた。それでね、ここからが一番大事な話、そして一番私が伝えたいお話。それはね、私はずっと人魚になりたいと子供のことから思っていたけど、大人は真剣には取り合ってくれなかったし、周りの友達はバカにしてイジめてきた。
でもみんなにわかって欲しいのは夢を信じる力は、夢を叶える力なの。言い続ければきっと叶う。私は負けなかった。人魚はいると信じ続けたし、そのための努力をした。
そうしたら私は、人魚になることでお金を稼げるようになって、ビジネスマンとしても成功した。人魚として生きていくことで、このファームも運営できるようになった。ただ人魚になって自己満足で終わるのではなくて、自分の糧として、自分のビジネスとして人魚になることで食べていけるようになったの。
だからもしあなたが今、夢があって、それが叶いそうにないと、ちょっと思っているのだとしたら、自分を信じて。自分を信じてあげられるのは、自分だけ、誰にも頼ってはダメ。自分を信じる力は自分だけのものだから、誰かに期待したり、誰かに頼ったり、誰かのせいにしてはダメ。そうしていれば、夢はきっと叶うから」
そういうと、セコイアは周りも見渡します。彼女の周りにはすでに30人以上の子供たちが周りを取り囲んで、真剣に聞いています。人魚なんて嘘っぱちだと言っていた男の子も、セコイアの尾鰭を触って「これ、本物だよ!」と言っています。
「誰か私に続いて、自分の夢について何か言いたいことはある?」
そう聞くと1人の女の子が手を挙げたので、セコイアはマイクを渡します。