ハワイのアートは、風景画や植物画、サーフアートなどがポピュラーですが、アブストラクトと呼ばれる抽象画はなかなかレアな存在ではないでしょうか。最近出会ったアブストラクトを優しくもパワフルに描く、素敵なアーティストをご紹介します。
ジェイク・シマブクロとのユニークなコラボレーションが気になる、ハワイ島のアーティスト、Kristie Fujiyama Kosmides
2023.10.31ハワイ島ヒロで生まれ育った日系4世のクリスティー・フジヤマ・コスミデス(Kristie Fujiyama Kosmides)さんは、子供時代から絵を描くことが好きでした。
シアトルとロサンゼルスのアートスクールで、ファインアートと商業アートを学びファインアートの学位を取得。大学から表彰されるほどの優秀な生徒だったクリスティーさん。2年後、アーティストとしての自身への挑戦として、ロサンゼルスの高級エリアであるブレントウッドに小さなアートスタジオを構えたのです。
フルタイムアーティストとして頑張るも、絵を売ることの難しさを実感。1年後、スタジオをクローズし、アーティストの道を諦めることを決意した日のことでした。画材道具を抱えて、アパートに戻ると一人の女性に出会ったのです。
その女性は、画材道具を抱えていたクリスティーさんに声をかけたのです。
「何を持っているの?」と。
自分がアーティストであると説明し、作品を見た女性は、なんとクリスティーさんに高級ショップやレストランが並ぶメルローズ通りのスペースで、ソロアートショーをオファーしたのです!2006年のことでした。
実はこの女性、クリスティーさんが住んでいたウェストハリウッドのアパートのオーナーだったのです。旦那さんは建築家で、アート業界とのつながりを持っていました。このミラクルとも言えるソロショーをきっかけに、クリスティーさんのアーティストとしてのキャリアがスタートしたのです。
「私は、アーティストであることを一度諦めたのです。あの日に起きた運命的な出会いは、 人間の力を超えた何かが『アーティストであり続けなさい』と、私に伝えたかったのではないかと思えるほどの体験でした」と、クリスティーさん。懐かしみながら語ってくれました。
その後は、口コミで次から次へとプロジェクトが舞い込んでくるようになりました。今では、コレクター以外にもホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港内の入国管理室に続く廊下やハワイアン航空のターミナルエリア、ヒロ空港内ロビー、ハワイ大学、シェラトン・マウイ、ハワイの複数の病院、ヒロのファーマーズマーケットなど多くの場所で彼女の作品を見ることができ、人気アーティストとして日々精力的に活動しています。
クリスティーさんの作品は主に油絵で、筆の音が聞こえてくるような躍動感のあるストロークや、油絵ならではの美しい色使いが特徴的です。目に見えないエネルギーをクリスティーさんの作品から感じることができます。
ハワイの生活、人々、そして場所からインスピレーションをたくさん受けて、その内なる美を、抽象をメインに具象と組み合わせて表現しています。クリスティーさんは、作品を描く工程をこう表現します。
「油絵で大きなスケールで描くのが好きです。真っ白い大きなキャンバスの前にいると、大海の中心にいるような感覚を得ます。孤独で、脆くあると同時に生を感じ、つながりを感じます。
そして、インスピレーションと開放感が私の筆を動かしていくのです。この脆くて儚い世界の中で、永遠には続くことのない一瞬を、エネルギーと本質を探し求めて描くのです」
別々のバックグラウンドを持ったアーティスト3人のユニークなコラボレーション
第一線で活躍を続けるクリスティーさんの新しいプロジェクトが、「アブストラクト・コラボ(Abstract Collab)」。
ウクレレ奏者のジェイク・シマブクロ(Jake Shimabukuro)氏、映像作家のトレイシー・ニイミ(Tracey Niimi)氏、そしてクリスティーさんの3人によって構成される映像、音楽、そしてペインティングのコラボーレション。
下書きやリハーサルは一切なく、その瞬間に感性のみでクリエイトされていくライブミュージックとペイティングを映像に収めるというユニークなものなのです。
音楽、アート、デジタルメディアという3つの異なる表現方法を使って、お互いインスピレーションを受けながらオーガニックにそれぞれの作品が完成されていくという自然発生的なクリエーションについて、ジェイクさんはこう語ります。
「ウクレレを超える表現を模索していた時に、アブストラクトなミュージックに興味を持つようになりました。クリスティーの作品は、いくつものレイヤー(層)が重なっている。そしてその作品は目に見える形で残る。僕の音楽は、演奏が終わると消えてしまいます。
クリスティーの作品を見たときに、ループマシーン(演奏をその場で録音してリピート再生することのできる機器)を使って、音のレイヤーを作り、ウクレレを超えるアブストラクトな音楽を作りたいと思ったのです」
二人の出会いはまさに運命的だったと言えるでしょう。そしてトレイシーさんを加え、アブストラクト・コラボがスタートしました。すでに複数のプロジェクトを行い、多くの人たちにインスピレーションを与え続けています。
「もうひとつ気づいたことがあります。それは『おかげさま』ということです。レイヤーの下には、もう一つのレイヤーがありますよね。つまり、新しいものの下には必ずその元となるがものがあるのです。つまり、ジェネレーションが続いているということです」
クリスティーさんとジェイクさんを訪ねたスタジオで、ジェイクさんが発した深い言葉に感動しました。
クリスティーさん、ジェイクさん、トレイシーさんのそれぞれの才能が共鳴しあい、ポジティブに反応し合い、高め合い、一人ではできなかった新しいクリエーションが想像されていくというのは、ミラクルなマジックとも言えるのではないでしょうか。
クリスティーさんが話してくれたキャンバスの前に一人で佇み孤独になる時間とは対極に位置するこのアブストラクト・コラボは、クリスティーさんにさらなる可能性やインスピレーションを与え、このコラボを通じた新しいプロジェクトもまた自然発生的に起こっているそうです。
このアブストラクト・コラボでは、子供たちとコラボをするなど、パンデミックを通じてより重要視されるようになった子どものメンタルヘルスの為にも、アートをシェアしていきたいという思いが込められています。また、マウイ島の山火事の復興のためのチャリティーイベントとしても開催されました。
「私たちが作品を作るプロセスや感じるインスピレーションをみなさんにシェアしたいと思っています。ちょっと音が大きくて、messy (散らかす、汚れる) ですけどね」と、クリスティーさん。
アートの未知なる可能性を広げていくクリスティーさん、そしてアブストラクト・コラボの今後の活動にぜひ注目してください。
[Photo credit: For all photograph of Abstract Collab by Tracey Niimi. Head shot of Kristie Fujiyama Kosmides is photographed by Daeja Fallas ]
クリスティー・フジヤマ・コスミデス/ Kristie Fujiyama Kosmides
ウェブサイト: https://kfk.art/
インスタグラム: https://www.instagram.com/kristiekosmides/
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