姉妹島盟約60周年を記念してハワイ島群長一行が東京都・伊豆大島を訪問

2022.09.08

レポート・撮影/寺田直子 トラベルジャーナリスト
写真提供/大島・ハワイ島親善交流協会

7月、ミッチ・ロスハワイ島郡長、ノリコ・ロス郡長夫人、ロス・バーチ/ハワイ島観光局長、ドウェイン・ムカイ/ハワイ島日系人協会長など7名がハワイ島から姉妹都市関係を結ぶ兵庫県洲本市、群馬県渋川市、東京都大島町(伊豆大島)を訪問。国際交流を通して相互理解を深めました。なかでも伊豆大島との姉妹島関係は今年2022年、盟約60周年という記念すべき年でもあり2泊3日の滞在中、訪問団は精力的に島内をめぐり各種記念行事に参加して島民や子供たちと触れ合いました。伊豆大島に拠点を移し活動するトラベルジャーナリスト寺田直子氏によるレポートです。

伝統衣装のアンコさんたちがお出迎え

1962年2月、当時のハワイ郡参事会議長トーマス・K・クック氏が、東京都が抱える伊豆諸島のひとつ伊豆大島(大島町)に来島、初代大島町長だった藤井豊之輔氏と姉妹島の盟約を締結しました。これはハワイ島にとって初めての姉妹都市締結で、一般日本人の海外渡航が解禁された1965年よりも前の本格的な国際交流となりました。それから60年、今年、35年ぶりにハワイ郡長の伊豆大島訪問が実現しました。
ハワイ島から来島されたのはミッチ・ロスハワイ島郡長、ノリコ・ロス郡長夫人、ロス・バーチ/ハワイ島観光局長、ドウェイン・ムカイ/ハワイ島日系人協会長、トミー・ゴヤ東ハワイキワニスクラブ会長、ジェイン・クレメント姉妹都市担当、レイコ・ハマノ同行通訳の計7名。一行は7月28日午前、高速ジェット船で伊豆大島に到着、大島町長を筆頭に伊豆大島・ハワイ島親善交流協会メンバー、伝統衣装のアンコ(伊豆大島の女性を象徴する言葉)姿の島民、保育園児によるチビアンコたちが港にお出迎え。第一中学校、都立大島高校による吹奏楽部の演奏が華やぎをそえてくれました。

9年前に災害があったメモリアル公園で黙とう

バスに乗りまず向かったのは日本全国でも珍しい火山博物館。伊豆大島、ハワイ島は共に三原山、キラウエア山と活火山を有する島。自然環境、風土、文化など共通する点も多く、それゆえの姉妹島となった背景があり防災、観光など互いにかかえる課題もあります。昼食後、大島町役場を表敬訪問し三辻利弘町長、議長、商工会長などと挨拶。今回のために用意されたハワイ島と伊豆大島の友好関係の歴史を写真などの資料で見せるパネル展示を鑑賞しました。その後はメモリアル公園などを訪問。メモリアル公園は2013年、台風 26 号による土砂災害で甚大な被害を受けた地域に造成されたもの。死者 36 名行方不明者 3 名という尊い命が犠牲になった場所に「鎮魂・災害の伝承」と「島の活性化」という二つの指針のもと誕生しました。今回はここにハワイ側から寄贈された石製のベンチが設置され、その隣には盟約60周年記念碑も設置。園内の「祈りの広場」では親善訪問団、三辻町長、町議会議長らによる黙とうが行われました。

今回の滞在先となるのはホテル・カイラニ。ここは日系ハワイのルーツを持つオーナーが運営するリゾートホテルでカイラニとはハワイ語で「海と空」という意味があります。夕食はホテル内のレストラン「ハイビスカス」で町長、観光協会長など関係者が集い懇親を兼ねてなごやかに開催。伊豆大島の特産を使いハワイ風にアレンジしたメニューが並び、食でのおもてなしとなりました。

島の高校生が考案したハワイ風弁当のランチが登場

翌日はホテルを出発して伊豆大島の自然環境、文化を知るため愛称「バームクーヘン」で知られる地層大切断面、島の名産である椿油の商品を扱う「大島椿」、火山の溶岩がそのままの姿で広がる野田浜、伊豆大島の生産者の食材が購入できる「ぶらっとハウス」を訪問。伊豆大島の特産であるあしたばや夏野菜、ハチミツ、青唐辛子などの説明を受け、大島牛乳を使ったソフトクリームやジェラートなどを試食されました。

この日のランチは都立大島高校の生徒が妹島交流60周年を記念して考案したハワイ風弁当が登場。その名も「ペレ・アイナ弁当」。「溶岩の大地」という意味でまさにハワイ島と伊豆大島のイメージそのもの。内容も両島の食材を活かし、非常に工夫がされ大好評でした。

<ペレ・アイナ弁当>
・明日葉炊き込みご飯ロコモコ風
かめりあ黒豚を使ったハンバーグに大島高校で育てた烏骨鶏の卵を使った目玉焼きのせ
・島のりをのせたポテトサラダ
・照焼風チキンロール オクラ煮浸しゴーヤポン酢添
・明日葉のおひたし
・白身魚メダイのソテー、タルタルソースがけ

火山島としての自然との共生、災害への取組みを意見交換

昼食後は意見交換会が行われました。テーマは「自然との共生」と「災害への取組」。伊豆大島側からは「ジオパーク」、現在、実験的に取り組んでいる「浮体式洋上風力発電」、「火山噴火の防災対策」「大雨・台風の防災対策」についてのプレゼンテーションが行われました。ハワイ側からはジェイン・クレメント郡長補佐・姉妹都市担当からハワイ島での取り組みについて説明。サスティナブルな活動を早くから行っているハワイ州において現在、2045年に100%クリーンエネルギーに転換することが目標とされています。その中でハワイ島は太陽光、地熱、海水、風力と自然エネルギーに恵まれた環境であることもあり再生エネルギーの指針であるRPS(Renewables Portfolio Standard)2022年の数値は60%を達成。地熱による調達比率が高く、まさに活火山を有するハワイ島ならではの結果だと実感しました。

「自然との共生」に関しては数年前から取り組んでいる「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」について触れ、持続可能な観光である「サスティナブル・ツーリズム」をうながすため訪れる側にも自然環境やその土地の文化へのリスペクトを求める「ポノPono」というキーワードが大切であることが示されました。「ポノ」とは「善良性」、「親切心」、「モラル」、「健康で幸福な状態」、「本質」、「正義」など多くの意味を持ちますが、神羅万象がバランスを保った状態を指すといいます。観光と開発、人と自然、そのすべてがバランスよくあること。世界屈指の観光デスティネーションであるハワイの目指す未来はまさに「ポノ」的なものであることがわかります。ジェインさんは最後に、「日本人はハワイの自然、文化をとてもリスペクトしてくれます。ポノという概念も自然に受け入れてくれることでしょう」と締めくくりました。

意見交換会の後には大島高校のハワイプロジェクトチームとの交流会が行われ、
学生たちがハワイ島ヒロ高校との国際交流についてなどを発表。将来的に両島の生徒たちの交換留学制度などが実現できたらと前向きに意見交換が行われました。大島高校・農林課の生徒たちはこの夜に行われた記念セレモニー会場の装飾を担当。校内のハウスで栽培したトロピカルな植物や流木、貝や石などを使いハワイらしい舞台演出に貢献しました。

アロハの心でもてなす記念セレモニー

柔らかい風が吹く、心地よい夏の夕暮れ。メモリアル公園には島民が次々にやってきました。ミッチ・ロス郡長を筆頭にハワイ郡訪問一行が到着しセレモニーがスタート。まず島民によるフラや歌が披露されました。続く式典では伊豆大島とハワイ島の姉妹島盟約に関する協定書の取り交わしがあらためて行われ、記念品として大島町からは椿の殻を使って仕上げた額縁、親善交流協会からは大漁旗と60周年記念の冊子を贈呈。ハワイ郡からは貴重なコアの木で作ったパドル、掛け時計が大島町に贈呈されました。三辻町長の挨拶に続き、ロス郡長からお祝いの言葉は日本語でのものでした。

「みなさんこんばんは、そしてアロハ!30年ほど前、私は2年ほど日本に住んでいました。日本語はあまり話せませんが今日は気持ちを伝えるためお話しします。今回、大島の人たちの温かなおもてなしは本当にすばらしいもので感動しています。三辻町長とは両島が抱える共有の課題などについて話し、今日は高校生たちとも会いました。私たちは家族のようです。これまでの友好関係をこの先60年もさらに継承し、永遠に姉妹島関係が続くことを願っています。そしてぜひ、近い将来ハワイ島にみなさんや島の学生たちがお越しになることをお待ちします。友情と温かなおもてなしに感謝します。ありがとうございました」

後半は大島町の郷土芸能が披露され、最後に「御神火太鼓保存会」総勢40名での太鼓が響き渡りセレモニーは盛大に幕を閉じ、ハワイ郡一行の2泊3日の伊豆大島訪問も無事にすべてのスケジュールを終えました。

<ミッチ・ロス/ハワイ郡長 インタビュー>

・伊豆大島の訪問は初めてでいらっしゃいますか?
「はい、初めてです。とても気に入りました。人、自然、食文化などすべてがすばらしく感動しています。また、ハワイ島ととても似通った環境であることも実感しています。ご存知のようにハワイ島も伊豆大島も火山を有します。その存在も重なるように感じました」

・人や文化の点ではどうでしょう
「伊豆大島の人はとても温かく、親切心をもって接してくださり感動しています。我々を心から歓迎しもてなしてくれました。カンシャ(感謝)でしたっけ?常に、その思いをもっています。アロハという言葉をみなさんご存知かと思います。アロハにはとてもたくさんの意味があります。感謝、愛、親切など。ハワイに暮らす人はもちろん、伊豆大島のみなさんにもアロハの気持ちがあると感じました」

・今回に日本訪問の大きな目的はなんでしょうか?
「日本の姉妹都市訪問が目的です。伊豆大島は中でも最も歴史があり古い姉妹島関係を持つものです。日本に点在する姉妹都市はハワイ郡にとって特別な存在ですが、伊豆大島は今年盟約60周年の記念すべき年を共に迎えるさらに特別な存在だといえます。それをお祝いすることも大きな目的でした。滞在中、昔の友好関係を知るアンコさんや、大島の方たちにお話しをうかがい、当時の資料や写真も見せてもらいました。長い時間育んできた草の根の親善交流を思い、35年ぶりに郡長として伊豆大島を訪問できたことをとても誇りに思うと同時に感動で涙が出てきました」

・いまだ新型コロナ感染拡大の中、このように実際に姉妹島を訪問する意義は大きいと思うのですが
「そのとおりだと思います。この数年、私たちはバーチャルでつながるということを獲得しました。ハワイ郡でも現地からバーチャルコンサートを行ったりと。それはとても良いことです。でも、やはり今回のように互いが出会い、実際にその土地を知ること。それはとても大切なことです。三辻町長とも現況の課題、問題点など多くを意見交換しましたが、とても貴重なことでした。2022年、ロシアとウクライナの戦争が行われています。こういう時期だからこそ互いに語り合い、食卓を共にし、笑い合う。そこから平和が生まれます。子供たちのため、彼らの未来のために。それはハワイや日本だけのことではなく、世界に平和をもたらすものだと信じています。今回、姉妹都市を訪問したことは世界の平和につながるものです。伊豆大島との60年という長い時間にはぐくんできた友好はゆるぎなきものです。ハワイ語で「家族」を意味する「オハナ」という言葉があります。伊豆大島は友人というよりも家族のような存在だといえます。私たちはどんなときでも家族である伊豆大島、そして日本の人たちを心から歓迎します」

2022年8月2日、日本航空のコナ便が新型コロナ禍の2年半の運休を経て再開しました。ハワイ島の「エリソン・オニヅカ・コナ国際空港」は、オアフ島の「ダニエル・K・イノウエ国際空港」に続く、ハワイ州第二の国際空港です。2021年には新施設も完成し、入国時の顔認証システム、バゲージクレームエリアの効率化など最新性を強化。より快適に利用できるよう改善されました。伊豆大島との国際交流だけでなく、より多くの日本のみなさんがハワイ島、ハワイ州を訪れる機会が増えることを心から願います。

伊豆大島・ハワイ島親善交流協会

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