ネイティブ・ハワイアンの音楽　初期

およそ1000年前にハワイに定住しはじめたネイティブ・ハワイアンは、初期から踊りをしたがうチャントという形で音楽の文化を持っていました。

チャント（詠唱）

ネイティブ・ハワイアンは「語り物」の達人です。彼らは波乗りの詩を詠い、キラウエア火山の噴火にまつわる恋愛物語の伝説を詠います。文字を持たなかったハワイアンは、口承文化を発達させました。詠唱は娯楽であると同時に、系譜・神話・自然環境について地域社会を教育する手段として機能しました。歌者（チャンター）は何世紀にも渡って伝え継がれた、おびただしい語数の物語を参考文献なしに寸分違わず再現することができました。（19世紀初頭、宣教師と印刷技術の到来によって状況は変わります。）

フラ

ハワイアン・ミュージックは常にフラとともにあります。ハワイの人々・大地の遺産を詠うメレ（ハワイの歌）に合わせて踊られるフラのステップ、手足の動きのひとつひとつに意味が含まれているのです。

西洋の影響：ハワイ音楽の変容

1778年にキャプテン・クックがハワイ島に上陸して以来、何百人もの宣教師、貿易商、移民、実業家たちが後に続き、ハワイ音楽の音色に影響を与えることになりました。

ヒメニ

ニューイングランドから渡った長老教会派が1820年代にハワイに入植すると、ハワイ語でヒメニ（Hīmeni）と呼ばれた「ヒム hymns（賛美歌）」が島の音楽に影響を与えました。賛美歌をハワイに広めた人として最も知られるのが、ハイラム・ビンガム牧師です。彼は聖歌学校を設立して賛美歌の唱歌集を出版しました。後に優秀な翻訳家・詩家であったロレンゾ・ライオンズが彼の役割を引き継ぎました。

オーケストラ

1872年にドイツからホノルルに移住した音楽家・楽団指揮者・作曲家のヘインリヒ・”ヘンリー”・バーガーがハワイ音楽の変容に大きな影響を与えました。西洋文化との接触以降、賛美歌の影響色濃かったハワイの音楽は、彼の出現により、世俗音楽の形を取り入れたものへと変貌していきました。バーガーをハワイへ呼び寄せたのは、ハワイ王国楽隊「ロイヤル・ハワイアン・バンド」を指揮することを希望した、カメハメハ５世でした。王の要請にこたえ、バーガーはハワイで多くの楽曲を作り、楽隊を管理しました。

ハワイアン・ミュージック・レコーディング

20世紀に入りハワイの音楽が商業的に録音されるようになると、その独特のサウンドは海を渡りメインストリームの音楽として人気を博しました。米国のレコード会社が最初に録音したのは『アロハ・オエ』『ハワイ・ポノイ』『トミ・トミ』などの楽曲。1935年から1946年には『ハワイ・コールズ』というラジオ番組がモアナ・ホテルから世界へハワイ音楽を広めました。その波はニューヨークまで届き、ティン・パン・アレイの作曲家・音楽家たちに多大な影響を及ぼしていったのです。

ハパ・ハオレ

1915年から約40年間人気を博した、メロディアスな音楽スタイル。ハワイ語で「ハワイアンと白人の混血」を意味します。音楽用語としては、英語の歌にハワイ語が散りばめられた曲を指します。ハワイについて歌うこれらの曲は、ロマンチックでノスタルジック、ときにコミカルであるのが特徴。ハパ・ハオレの作曲家として著名なのは、サニー・カンハ、ヘンリー・カイリマイ、ジョニー・ノーブルです。

ハワイアン・ミュージックの衰え

1959年にハワイが米国50番目の州になったことをきっかけに、ハワイ全島で多くのことが変化しました。それは音楽シーンも同様でした。

1960-1970

カマアイナ（ハワイ・ローカル）はトラディショナル・ハワイアン・ミュージックへの興味を失い、ハパ・ハオレを観光客向けの音楽として扱うようになります。代わりにポップ＆ロックに注目が集まり、地元ラジオ局はその流行に合わせました。この時代、ラジオでのハワイアン・ソングのオンエアタイムは全体の約５％にまで落ち込み、ハワイ若年層から人気を得たのは、トップ40を流すポイ・ボーイズの『K-POI』(1380)でした。この頃ローカルの人気を博したアーティストは、ドン・ホー、マーティン・デニー、クイ・リーです。

ハワイアン・ルネサンスの音楽への影響

文化的アイデンティティと伝統ハワイの価値観に対する興味が湧き上がり、トラディショナル・ハワイアン・ミュージックを創造。再び自らの文化を楽しもうという動きが活発に生まれ始めた時代です。

1970-1980

1960年代に高まったアメリカ本土の社会不安が、ハワイの島々にも派生しました。土地開発に対する抗議運動が爆発し、多くのハワイアンが自らの歴史・文化・アイデンティティを「再発見」するきっかけとなりました。音楽で変革をリードしたのは、ギャビー・パヒヌイ、サンズ・オブ・ハワイ、サンデー・マノアなどです。ハワイ文化が活気づいたことで、ラジオでのトラディショナル・ハワイアン・ミュージックの放送時間とレコード売上が拡大。この時代に人気を博したアーティストとして、セシリオ＆カポノ、カラパナ、レッドワード・カアパナが挙げられます。

コンテンポラリー・ハワイアン
の黄金時代

1970年代前半のハワイアン・ルネサンスが、コンテンポラリー・ハワイアン・ミュージック黄金時代の基礎を築きました。傑出したアーティストが、ローカル・レーベルのプロデュースのもと、質の高い音楽を生み出していったのです。多くのハワイアン・ミュージシャンが国際的に知名度を高めたこの時代に、フラもまた、世界的に注目を集めました。

ハワイアン・ラジオ・ステーション

地元ラジオ局が、コンテンポラリー・ハワイアン・ミュージックを熱心にかけるようになりました。KCCNとKKUAでは、ミュージシャンによるスタジオ生演奏も放送。

レコード・レーベル

ローカル・レーベルが、才能あるハワイのコンテンポラリー・ミュージシャンをプロデュースし、世に送り出しました。例として、ポキ・レコード、パラダイス、ブルーウォーター、トロピカル・ミュージック、ダンシング・キャット、そして今も高い人気を誇るマウンテン・アップル・カンパニーが挙げられます。

コンサート

DJ、レコード・レーベルのオーナーで「アンクル・トム」と呼ばれたトム・モファットは、アメリア本土のアーティストをハワイに呼ぶプロモーターとして活躍しましたが、同時にローカル・アーティストのプロモートにも余念がありませんでした。一例として、セシリオ＆カポノ、カラパナ、再結成フイ・オハナなどです。また、この時代に生まれた影響力の強いアーティストは、イズラエル・カマカヴィヴォオレ、ケアリイ・レイシェル、ウィリー・K、カアウ・クレーター・ボーイズ、ハパ、ハワイアン・スタイル・バンドなどです。

今日のハワイアン・ミュージック

ハワイの音楽は進化を続けています。次々に生まれる新しいアーティストは皆、歴史あるハワイの豊かな文化から取り入れたものを、「カニ・カ・ピラ」＝ハワイ州民がいう「音楽をプレイすること」に注いでいます。

ハワイ・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツと
ナ・ホク・ハノハノ・アウォード

1982年に設立されたハワイ・アカデミー・オブ・レコーディング・アーツは、ハワイ版グラミー賞『ナ・ホク・ハノハノ・アウォード』主催として、その存在が広く知られています。最初のナ・ホクは、KCCNラジオのPRを目的に、DJクラッシュ・ケアロハによって1977年に開催されたものでした。

ネオ・トラディショナル・アーティスト

ハワイアン・ミュージックが言語を中心に構成されていることは、今日のトラディショナル・ミュージシャンたちにとっても変わりません。古代のチャント、古いラブソング、彼ら自身の伝統が影響を与えています。特筆すべきアーティストは、カラニ・ペア、クアナ・トレス・カヘレ、カウマカイヴァ・カナカオレ、クパオアなどです。

アイランド・レゲエ

ジャワイアンとも呼ばれるアイランド・レゲエは、ジャマイカとハワイの融合から生まれ、1980年代中頃に人気に火がつきました。ダンサブルなビートとアイランド・ライフを伝えるキャッチーな歌詞によって作られたハパ・ハオレ・ミュージックの現代版ともいえるスタイルは、現在も人気です。草分け的アーティストとして、ウォルター・アイポラニ、ナ・ワイ・ホオルウ・オ・ケ・アヌエヌエ、マナオ・カンパニー、ホアイカネ、ショーン・ナアウアオが挙げられます。

ハワイの音楽の今

ソングライター、ミュージシャンともに多くのアーティストが独自のスタイルを持ち、すべてのアーティストを規定のジャンルに収めることはできません。ウクレレ名手のジェイク・シマブクロによってソロ楽器として脚光を浴びたウクレレが、次世代のアーティスト、タイマネや15才のエイドリアン・ジェイムスなどによって演奏されています。フォーク・ロック＆アコースティック・シンガーのジャック・ジョンソンは、2001年にデビューして、ハワイ、そして世界中のハートを掴みました。その他、ザ・グリーン、アヌヘア、キミエ・マイナー、ポーラ・フガ、マイク・ラブなどのアイランド・アーティスト／バンドが、明るく元気な世界観や社会的メッセージも込められた魅力的な楽曲で、ジャンルに捕らわれない活躍をしています。